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池田 里香子のコラム:: ホスピタリティ・コンシェルジュの研修、講演、セミナー 企画・主催・運営・実施等のマリテーム池田 里香子が綴るコンシェルジュ・コラム

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「フランス式接客術」 序文

投稿日: 2007年04月13日 01:39

パリ、ホテル・プラザ-アテネのかつてのコンシェルジュ、マルセル・カシオラト氏によって書かれたLE HALL(ホテルロビー)という著書を、この度翻訳させて頂きました。その内容を、このコラムを通して今後ご紹介していきたいと思います。

1945年、パリで書かれたこの本は、いわば「コンシェルジュの教本」とも言えます。私自身もコンシェルジュとして勤務していた時代、この本を参照し、日々業務に取り組んだものです。この本は、それはまるで美しく、古いパリの街並みのように、時代が変わり、国が違っても決して色あせることがないほど、価値のあるものです。

いつかこのような素晴らしい本が、日本で働くコンシェルジュ、又ホテル業界をはじめサービスに根ざす企業の方々に広く愛読され、サービス向上、コンシェルジュ育成に役立てて頂けたらという思いが募ります。なぜなら、時代を経た今でも、この本に書かれているコンシェルジュ哲学は、今もその価値を失うことなく継承されているからです。そしてすでに他界されてしまったMカシオラト氏の、コンシェルジュという仕事へ情熱、愛情、誇りがこの本から伝わります。

まずはこの本の序文です。カシオラト氏を良く知るホテルプラザアテネの当時の総支配人、アンリ・ダルノー氏の言葉。
M.カシオラト氏によるホテルロビーの一流のサービス論が本になって世に出ることは、私にとって喜びに耐えません。 失礼を省みず言わせていただけば、コンシェルジュに求められる資質を述べた部分は非常に長く、1人の人間がこんな多くのことを全部できるわけがないと思う読者もいるでしょう。しかしここに書かれたコンシェルジュの条件は、著者が出した心理試験についてのリポートの内容と完全に一致しています。つまり、理想的なコンシェルジュというのは、科学的に説明できるものであって、もはや神話ではないのです。カシオラト氏がこの本を書く意欲と才能と時間を全部持っていたことは実に喜ばしいことと言えます。

一流ホテルの支配人がコンシェルジュ要員を選ぶ際にこの本を参照すれば、きっと良い結果が望めます。直感に頼る昔ながらの方法で行くのか、心理学に基づく現代的な手法を利用するのか、どちらがよいでしょうか。

支配人たちは従業員の業務、服装、立ち居振る舞いについて、守るべき規範を確認したり、社員を教育したりする時に、この本を繰り返し参照することになるでしょう。部下への指示、とりわけロビー要員に対する指示は明確でなければなりません。なぜなら彼らは、ホテル内での接客のみならず、制服姿で外国の領事館や駅、商社などに赴くこともしばしばあるからです。そしてどこへ行こうとも、常に毅然とした態度で、自分のホテルを代表しなければならないからです。

高級ホテルのコンシェルジュは、わが国の経済にも貢献する重要な存在です。彼らは地元の観光やレジャーについて知り尽くしているのですから、外国人旅行者にそれを紹介することによって、滞在を長引かせることが可能です。外国人が強い感心を持つ「古いヨーロッパ」を心行くまで味わってもらうことができます。これによって、ほっておけば他国に流れたはずの外貨がフランスに蓄積されるわけです。

ですから、「ホテル学校が教育プログラムを組む際には、ロビーサービスを忘れてはならない」というカシオラト氏の意見には、私も心から賛同します。実は、このような試みは既になされてきました。1941年から44年にかけてホテル・プラザ-アテネの総支配人を勤めた私は、パリ・ホテルスクールの研修生を招いてホテルマンの短期養成講座を催しており、カシオラト氏には毎年その講師を依頼しているのです。

今後はホテルサービスを深く研究する人が他にも現れて、この本に負けない理論や方法が発表されることを期待します。そして「フランス式接客術」の新しい原理が世界に向けて発信されることを、そして現場従業員には仕事のあり方がより明確な体系として示されるようになることを願っています。


LE HALL 著者: マルセル・カシオラト